この記事では、劇場アニメ『怪盗クイーンの優雅な休暇』のSNSでは書きづらい少し踏み込んだ感想を供養していきたいと思います。
「え? 今更?」と思うかもしれませんが、クソ映画としてネタ的にバズらせることができる作品じゃないし、ネガティブな感想は上映中に表で流さない方がいいな……と判断し、公開当時に書き溜めて寝かせていたものなので。
Twitterのフォロワーさんが「円盤出るならそろそろ情報出るよね?」とツイートしていたのを目にして、そろそろ放流してもいいかな、と判断しました。
一介のオタクが言っていいことではないな……という内容やただのお気持ちもあるため、閲覧注意でお願いします。
原作勢には楽しいアニメ化だが、映画単体だと薄く感じる
これは劇場版前作『怪盗クイーンはサーカスがお好き』の頃からそうなのですが、まず原作勢的には大好きな物語とキャラクターに動きと声がついて銀幕デビューしている……それだけで嬉しいんです。
でも、原作勢として、映画好きとして、重箱の隅をつつくように批評してしまうのも事実。
原作が辛くてボリュームが多いがめちゃくちゃ美味しい専門店の絶品カレーなら、アニメ版は本家より辛さと量を抑えて食べやすくしたファミレスのコラボカレー みたいな感じ。
専門店の味が好きな人がわざわざ後者を何度も食べに行くか?って話なんですよ。
原作やシリーズ伝統を尊重してる感じはあるし、アニメを導入にできるようキャラの顔見せはすごく丁寧にやってるけど、掘り下げる描写をだいぶカットしてるため、アニメ単体で見た時の深みと爆発力に欠けてる感じというか……。
個人的にはもっと原作が持つパワーを引き出せるアニメ化をしてほしかったな……と思っています。 尺の制限があるなら大幅に変えてもらって構わないとすら考えてるけど、原作勢の多くは嫌がるかな……って思うから難しい。
グレンラガンの劇場版とか、宝塚版RRRとか、令和アニメ版ベルばらのような、限られた尺のなかで大胆に再構成して、それでも元の良さを損なわずに元の作品で出来なかったことをやる……みたいな……そういうのを個人的には求めてました。
「映画が面白かったら原作も読んでください」ってなりがち。せっかくの映画化なのにもったいなくない?
アニオリの可能性
尺の都合で薄味になってしまう&初動で観に行く原作勢にとっては新鮮味が少ないのが、原作付き映画としては致命的な気がします。映画単体で楽しめる作品としての工夫が足りてないというか……。
原作勢としては推しが動いて喋るだけで楽しいけど、映画として見たら物足りないんですよね。
映画化に漕ぎ着けたスタッフのモチベーションがおそらく「大好きな原作が動くところが見たい」だと思うので、スタッフ的にはナシかもしれないけど考えてみてほしいのが、完全アニオリ回。
原作者・はやみね先生に原案を書き下ろしてもらい、それをアニメ化する。
それなら原作勢もまっさらな気持ちで見られるし、原作を知らない人達とも一緒に盛り上がれます。
原作者ノータッチだと荒れるのは目に見えてるので、原作者の書き下ろし・もしくはきっちり原作者に監修してもらうのが前提です。
また、アニオリで大幅に再構成して情報量を詰め込む判断も大事だったんじゃないかな〜と思います。
休暇だと、初楼戦をまとめて消化する……とか。飛びかかるロシロクの影からクラサの弾が飛んでくるとかそういうやつ。
大幅な改変は原作勢が嫌がるし、スタッフもやりたくないだろうけど、薄味になって「これ映画でやる意味ある?」ってなるくらいなら、改変してでも映画としての面白さを追求してほしかったかな。
上手くハマれば映画単体でも楽しめる作品になるけど、酷評されて終わる可能性はもちろんある。でも、その賭けに出ないといけないと私は感じました。
そもそも『休暇』は早かったんじゃない?
とにかく原作が分厚い。90分の尺で魅力を余すことなく描くには長すぎる。
そもそも、原作の出発点が「長編を書く」であり、「限られた尺に収める」劇場アニメには向かないと思います。
正直、1クールアニメがベストじゃないかな。初楼戦は1人1話まるまる使って、『前史』の内容を仄めかすくらいの濃密さが欲しかった。映画としてやるなら2時間は欲しかった……理想は3時間(90分×2)。
また、『サーカス』に比べるとアクションが格段に良くなっていますが、昨今の劇場アニメで話題になる程の話題性はないな……と映画好きとしては厳しく見てしまいました。
もっと尺と予算が取れるまで続いてから、満を持してのアニメ化でもよかったのでは。
初期作品かつ『休暇』よりコンパクトな『魔窟王』や『オリエント急行』、ページ数が少なめな比較的最近の巻から『ブラッククイーン』辺りは原作未読勢や出戻りにも優しい内容だし、劇場アニメにも向いてたんじゃないかな……と思います。
公式がプロモーションを頑張るべき
言っちゃあなんだが、口コミで伸びるタイプの作品ではないと思います。
前作がYouTubeとかで公開して話題になる度に「怪盗クイーンってアニメになってたの!?」ってコメントを見かけますが、これほんともったいない!
映画の存在を知っていれば見てくれたはずの人へのプロモーションが足りてない。
舞台挨拶で「子ども達にも見に来てほしい」という話が出ましたが、それならガッツリ宣伝すべきでは。
封切館が前作に比べると多いから、初動が悪いとどんどん回数が減るし、セカンド上映も難しくなってくる。
宣伝に回せる予算がないからなのかわからないけど、プロモーションを放棄してはいけないタイプの作品なのにどうして……?
そりゃ熱心な原作ファンは少なくないし、初動で観に行くような人達に口コミで伸ばしてもらおうという考えもわかります。(実際それで伸びる映画もある)
ただ、メディア化を応援したい気持ちと、映画として他人に勧めやすいかどうかは別なんですよ。
初動で見に行くような人は見る前から展開をほぼ知っている。だからコメントできるのは原作勢から見たアニメ化に対する率直なレビューくらい。
口コミで伸びる作品は「なんかすごいもの見た!」という熱のある感想が多いけど、アニクイがこれに当てはまるかというと違う気がする。限られた尺と予算で原作をできるだけなぞった優等生アニメって感じなので……。
原作は独特のリズム感とボリュームもあって「なんかすごいものを読んだ」と言わせるだけのパワーがあると思うのですが、今回の映画にはそういったパワーを感じなかった。正直、前作の『サーカス』の方がワクワクした。
これは単純なクオリティの話じゃないんです。うまく言えないんだけど、バズる映画特有の熱量みたいなのってあるじゃないですか。
前の項目でも書きましたが、映画単体で勧められる作品ではないので口コミで伸ばすのはちょっとキツいかな、って印象です。
中途半端に子どもの方を向こうとしなくてもいい
『サーカス』の頃に比べると、展開の仕方が子ども・一般向けになったな……と感じますが、なんか噛み合っていないような。そうしたふらっと見てくれるはずの人に向けた宣伝が弱すぎる気がします。
原作最新刊の刊行時期と公開が微妙にズレているのも、これどうにかならなかったんかな……と思います。
せっかく帯に映画の宣伝が載ってるのに、新刊を手に取る頃には上映館が減っていた……って悲しすぎる。今作は封切館が多いせいか、早々に打ち切るところも多いのがね……ふらっと行けないのキツすぎる。
映画化なんて新刊or話題書でフェアやったり特設コーナーができてもおかしくないのに、そういう試みをしているのが一部の書店だけなのも惜しい。
それから、なぜムビチケ小人券を売らなかったんでしょうか。子どもに来てほしいなら売るべきだと思います。
(ムビトムには、にし先生絵の小人ムビチケがありました。絵柄が違えば、使うアテがなくてもオタクは買います)
Twitterでも目にしましたが、子どもだけで劇場に行くのはハードルが高いんです。
とくに田舎になればなるほど、自家用車じゃないと行けないような場所や映画代よりもずっと高い交通費をかけないと行けない場所にしか映画館がなかったりします(経験者)。
大人にも興味を持ってもらえるように宣伝して、子どもも一緒に連れてきてもらうのが理想だと思うんです。公開が5月終わりなのだから、GWのキッズアニメ……とくにコナンでガンガン予告を流すべきだったのでは。てか、CM流さなかった理由なに……?宣伝費の問題……?
宣伝に回すリソースがないけど子ども達に見てもらいたいなら、Webアニメでもよかったんじゃないの?って思います。
クイーンは現在も刊行が続いているシリーズですが、「子どもの頃に読んでた!懐かしい!」という大人のファンは多いです。今のちびっこの親ってはやみね作品を読んで育っててもおかしくない世代ですよね。
そもそも、怪盗クイーンシリーズ自体が「児童書らしからぬ作風の児童書」であり、背伸びした雰囲気が魅力。劇場アニメシリーズとしてやっていくなら、大人の鑑賞に耐えうるものを出すのが最善ではないか?と私は思います。
ここ数年は平成リバイバルブームもあって大友がつきやすくなっているため、どこのコンテンツも大人の存在は意識するのが当たり前になりつつあります。なので、レーティングさえ上がらなければ大人向けに振り切っても大丈夫では?原作者のスタンス的に完全大人向けにしたくない気持ちもわかるけど……。
オタクはうまく使ってくれ
スタッフが「何回でも観に来てほしい」という旨の発言をしていますが、『サーカス』に比べると『休暇』はオタクに厳しめな展開だと思います。
まず、上映館。初動で145館程度と前作(50館程度)に比べると大幅にアップ。しかし、2週間で打ち切る劇場多数。回数を重ねたくても近場が終われば観に行けません。
次に、映画の内容。正直、1回見れば十分かな〜って感じ。これは前作もそうだったけど。
複数回見ることをを想定している作品は、作中になにかしらの仕掛けを施していることが多いです。
- もう一度観るとガラッと感じ方が変わるストーリー(例:RRR)
- 考察が捗る小ネタを散りばめる(例:ゲ謎)
- 応援上映を想定して作られている(例:キンプリ・うたプリ等)
また、作中の要素が上手くハマって、結果的に周回する人が出てくる人気作もあります。
- 映像や音楽が独特で中毒性がある作品(例:プロメア、タローマン)
- 単純にアニメ映画としてハイクオリティで満足度が高い作品(例:劇場版名探偵コナン・鬼滅・忍たま等)
『休暇』はそういった、何回でも見たくなる仕掛けが弱いんですよね。かといって、純粋なクオリティ勝負するには尺と予算が足りなすぎる。
『サーカス』はアニメ化自体が物珍しくて、それだけで何度でも観たいってブーストかかってたんですけどね……。
2作目はさらにもうひと声欲しかったな。
そして、莉犬さんを主題歌として起用するなら、ゲスト声優としても参加してもらうべきだったと思います。
主題歌だけって映画への訴求力としては弱くないですか? 新曲聴きたいならMVや楽曲配信があるもの。
莉犬さんは声優経験もあります。イメージ的には、少年キャラかな〜と思うのですが、『休暇』には該当しそうなキャラがいないのがね……。(実際に合うかどうかはさておき)、『魔窟王』の小牙くんや『オリエント急行』のジャックのように、レギュラーではないキャラならゲスト声優としてもキャスティングしやすかったのでは……と思います。
あと、入場者特典であにぱにさんのコラボイラストを配布……くらいはあってほしかった。あにぱに側のイラストレーターに描き下ろしてもらったクイーンと、アニメスタッフが描き下ろしたあにぱにさんをポストカードor A5カードにして配ったら、双方のオタクにとって観に行く理由にはなるじゃないですか……。推しの新規絵だもの……。
それから、オタクができることとして「たくさん観ること」を挙げるなら、なぜムビチケを積ませるような売り方をしなかったんだろう。ムビチケは使わなくても期限が来たら興行収入に加算されます。つまり、オタクがムビチケ積んだらそれだけで興行収入は増える。
ムビチケの絵柄や特典を複数用意して○枚綴りで売るとか、ランダムで特典つけるとか。いくらでもえげつない売り方できたと思うんですけど、やらなかったのは良心かな……と信じておきます。(実際これやると燃える)
物販にぬいぐるみがありましたが、その限定デザインをムビチケ有償特典にするくらいのことはしてもよかったんじゃないかな。小さいぬいの需要もあって、めちゃくちゃ売れたんじゃなかろうか。
スタッフとオタクがバトルするくらいがちょうどいい?
スタッフが原作ガチ勢であることは作品やインタビュー等から分かりますが、公開日に観に行くようなファンも原作の強火ファンがほとんどかと思います。
今の作風だと、公開直後に原作勢によるスタッフとの解釈違いや原作との比較をして率直な感想を述べるのが毎回お約束になってしまう気がするのですが、これってあんまりよくないんじゃないかな〜と思います。
原作勢って気難しそう……とか、原作勢には不評なのかな……とか思われるのもそれはそれで心外なので。
でも、原作をできる限りなぞろうとしているアニメって、原作勢からすると改めてコメントできることって「原作と比較してどうなのか?」くらいしかなくないですか?
だから、初動の感想を公式が拾って盛り上げる、くらいのことをやってほしかったな。
具体的に言うと……舞台挨拶でスタッフが登壇する回はティーチイン形式でやってみませんか?
事前のお便り募集だと踏み込んだ質問は弾かれてしまう恐れがあるので、ファンとスタッフがお互い逃げられない環境で腹を割って話をするのが良いと思います。だからその場で質疑応答する形式で。
メディア化は公式を通した二次創作とも呼ばれています。
原作愛ゆえにアニメ化したのなら、同じく原作が好きなファンとの解釈バトルが起きたって全然おかしくない。
だから、原作ガチ勢の声を拾って公式がコメントし、コンテンツのひとつとして発信する機会があってもいいんじゃない? 作品愛の強いスタッフとオタクのバトルも含めて怪盗クイーンのアニメ化……って感じで名物になれたら面白いんじゃないかな、と思います。
アニメ化の今後の方針や展開に関しても、アンケート等で原作ガチ勢の声を積極的に拾っていけたら、「原作愛で作るアニメ化」としての完成度も高まるんじゃないかな。
最後に
いろいろ踏み込んだことを書いてしまいましたが、やっぱり『サーカス』の頃ほどいまいちノリきれてない感じがします。クオリティが上がり尺も増えたのに、なぜか『サーカス』の方がパワーあったな……となってしまう。なんでだろ……。
あくまでもこの記事で書いたのは“映画好き”として感じたことです。
ここがダメ、というよりは「なんか噛み合ってないんだよな」「ここもったいないな〜」って感じ。
原作勢としては嬉しい!楽しい!ありがとう!って言いたいことたくさんあります。それだけでアニメ化って良いな〜って思います。原作勢としては楽しい作品に仕上がってると思うので、昔読んでた!という人に届いてくれたら嬉しいアニメです。
結局、円盤や配信ってあるんでしょうか。
今のところ、円盤が出たとして買うかどうかは特典の内容次第かな~って感じです。
前作はアニメ化できなかった原作のシーンをドラマCDとして収録していましたね。今回もそんな感じで『前史』をボイスドラマ化してつけてくれたら買います。たぶん。キャストが良いので予算が足りないままアニメ化するくらいならドラマCD化でもよかったのでは……?